日常に恋する日常

見たもの、考えたことや感じたことを記し続けることで、知らないじぶんが見えてくると信じている30代のじぶん掘り下げ日記。

【読書】どこでもない場所

久しぶりにくらったエッセイを読みました。

浅生 鴨 さんの「どこでもない場所」

 

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どこでもない場所 [ 浅生鴨 ]
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このダジャレのようなペンネーム「あそうかも」さんを知ったのは、ツイッターでフォローしている、SHARP公式アカウントさんとの会話(スレッド)を読んだのがきっかけでした。ほんの2週間ほど前だったかと思います。

 

 

twitter.com

 

何やら可愛らしい装丁の本。

そしてこの浅生鴨さんは方向音痴らしい。こうなるとどんな方なのかすごく気になる。

本の帯の言葉に心を鷲掴みにされ、その日のうちに楽天ブックスよりポチッてしまいました。

 

「迷子でいいのだ

 ――前の人が曲がったら曲がる。バスが来たら乗ってみる。」

 

なんて人なのだろう。私も方向音痴だけど、ここまで人に流されはしない。

 

本の紹介にも目を見張るような言葉が並ぶ。

「たいていのことは苦手」

「受注体質の巻き込まれ型」

 

言葉選びも天才的だけど、方向音痴でかつ主体性がない・・・もう浅生さんのことが気になってたまらない。何なんだろう。謎すぎる。この本の表紙の動物(?)が、堂々としているのにどこでもない場所へ前を向きながら流されているという事なんだろうか。

 

そして届いた本。

色んな意味で衝撃的で、一気に読んでしまいました。

 

最初は旅先や仕事で経験した笑えるエッセイ(ただ、浅生さんの性格と出来事がぶっ飛び過ぎていて最初から度肝を抜く)。このまま笑いながら数話続くと、雰囲気はだんだん浅生さんの繊細な心の内を覗いていくようなほろ苦い話になります。

 

後半のほろ苦い話では、浅生さん自身の幼少期や学生期、青年期のエピソードが切なく重く描かれているのですが、誰もが「これ、自分かもしれない」という気づきがあるはずです。

「多くの人が見て見ぬふりをしてきた出来事や感覚、自分の弱い部分」をすごく客観的に捉えていて、痛いほど心に突き刺さる。

数えきれないほどグ色んな箇所でグングン心をえぐられるのですが、私がズシンと感じた一文を一つ紹介します。

 

予想している通りの未来など来ないとわかっているのに多くの人は未来を予想して、やがて訪れる未来とのギャップに苦しむ。だから僕はもう予想をしない。ただ自分がどうありたいかを忘れず、そこへ近づこうと願いながらも、深夜にこの繁華街を歩いている自分こそがまぎれもない自分自身なのだと、どこか諦めと共に受け入れるだけだ。 

 深夜アルバイトをしている浅生さんが、同年代で成人式を迎える晴れ着姿の若者を眺めるエピソード。晴れ着の下にも彼らなりの苦悩やもがきが当時の自分と同様にあったであろうことに、ずっと大人になってから気づく・・・

 

私の周りの友人はバイタリティ溢れる人が多く、キラキラと前を向いている人ばかり。

私はそれに圧倒され、自分が持っていない物をなんとか埋めようとしてきました。

でも、何も埋まっていないような気がする。

日々色んな気付きがあり、人間としては確実に昨日よりアップデートしているはずなのに、持っていない物という穴が増えていくばかりな気がしています。大きなことを成し遂げていない自分がとてもちっぽけに思えます。

多分、同じところでくるくる回っているのは、私に主体性がないから。そして何を目指すわけでもないから。焦るくせに前を向く勇気がないので、同じく主体性がないとおっしゃる浅生さんとは周囲から引き寄せるものが根本的に全く違うと思われます。

でも、起こった出来事をどう捉えるかでその意味付けも変わることをそっと教えてくれます。人生は時に自分ではどうにもならないことがあるってことも悟らせてくれ、主体性のない私みたいな読者にも正論を振りかざしたりはしません。

 

自分を冷静に観察しているからこそ、人生や他者に対する描写は時折すごく冷たく感じるのですが、その中にも温かさが感じられるのが不思議。本当に優しい人だからこそ、冷たくも繊細な描写ができるのだと、久しぶりに染み渡るような言葉を心の奥にグングン吸収しました。

 

「迷子でいいのだ」の言葉に反応した人には是非読んでもらいたいので、ここでは多くは打ち明けないのですが、笑え、考えさせられ、懐かしい気持ちにさせられ、ちょっと心にチクリと針を刺され、最後には…浅生さんからのシンプルで真っ直ぐなメッセージで迷子の冒険は終わります。

 

まさに、迷子でいい。迷子で何が悪い。

最後はスッと一歩を出してみようかな、と自然と思える一冊でした!