日常に恋する日常

地方で暮らす平均的な人

【映画鑑賞】her/ 世界でひとつの彼女

3連休、1日1本映画を見ました。

そのうち、2日目の呑気でほわんとした雰囲気に合っていたのが、この「her/ 世界でひとつの彼女」。

 

 

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(あらすじ)

そう遠くない未来のロサンゼルス。ある日セオドアが最新のAI(人工知能)型OSを起動させると、画面の奥から明るい女性の声が聞こえる。彼女の名前はサマンサ。AIだけどユーモラスで、純真で、セクシーで、誰より人間らしい。セオドアとサマンサはすぐに仲良くなり、夜寝る前に会話をしたり、デートをしたり、旅行をしたり……一緒に過ごす時間はお互いにとっていままでにないくらい新鮮で刺激的。ありえないはずの恋だったが、親友エイミーの後押しもあり、セオドアは恋人としてサマンサと真剣に向き合うことを決意。しかし感情的で繊細な彼女は彼を次第に翻弄するようになり、そして彼女のある計画により恋は予想外の展開へ――!“一人(セオドア)とひとつ(サマンサ)”の恋のゆくえは果たして――? 

 

主人公がAI、しかも画面の奥の人工知能でヒト型等でも何でもない、声だけが聞こえるAIと恋に落ちるという一見トンデモ設定。

私も最初は「まさかそんなこと・・・」と思って観始めたのですが、冒頭、主人公がテレフォンSEX(ていう呼び方は合っているのかな?)に興じるシーンが挟まれることで、一気に、そのまさかが現実味を帯びた予感に変わります。

 

主人公のセオドアは以前ライターをしていたようですが、今は「ハートフル・レター社」という手紙執筆代行サービスの社員として、感動的な手紙を代筆しています。

そこに書かれる文章は、依頼者のざっくりした情報だけをヒントにして作られるのですが、セオドアの文章は本当にセンスも良い。観察眼に優れているという才能も手助けしているのでしょう。

 

注)以下、ネタバレしながら進みます。

 

そんな観察眼の鋭さは、あくまでも妻や恋人となったAIのサマンサへ向けられ、ぶつかり合います。彼の欠点は、その観察眼を自分に向けなかったこと。

自分の理想から離れていく、つまりは自分らしさを追い求めて成長していくパートナーのことを受け入れられなかったために、妻とは離婚し、恋人(AI)のサマンサをも傷付けます。

 

この映画は、日常あまり意識しない当たり前のある事実を私たちに突き付けます。

 

●人は、「変わっていく」ものである●

 

日々、色んな出来事を経験し、昨日とは違う人と会う。

色んなことを学習し、身に付け、人は変わっていく。昨日の自分と明日の自分は違う。

この当たり前の事実を受け入れられなかった自らのせいで、妻と恋人との関係がこじれてしまうことにセオドアが気づくことでラストを迎えます。

 

身近に離婚を経験した友人(女性)が何人かいますが、そのうち多くの友人が「結婚してからお前は変わった、子供を産んでから変わってしまった」という、何とも自分勝手な台詞を元夫から吐かれています。

側でどんな出来事を一緒に経験しても微塵も変わらない人がいるとしたら、その人は詐欺師かよほど鈍感かのどちらかではないでしょうか・・・(笑)

 

全ての出来事は成長につながるエッセンスです。良くも悪くもそのエッセンスを取り込み、人は変わっていきます。だから人生は面白い。(←この気付きはセオドアより先に友人のエイミーが悟っていますね)

 

結婚し生活を共にし、子供を産んで変わってしまったとしたら、それは自然なこと。

変わり様を「良く変わった、悪く変わった」と評価するのは互いの一方的な判断の視点であり、「変わったことをお互いに受け入れられなかった」から別れるに至ったという事実。

これを元夫(もしくは元妻)から一方的に「変わったアナタが悪い!」となじられたらもう~腹が立ちますね。

変わった結果、分かり合えなくなっただけのこと。分かり合おうとしてもそれが難しかっただけのことです。

 

変わっていく相手。

(DV等、明らかに相手を精神的・肉体的に傷つけるように変化するのは論外であり、私はそれを一切肯定しません)

その変化を成長として応援するのか、自分の理想とかけ離れていくから拒絶するのか。はたまた自分もより良い変化を求めて一緒に成長しようとすることができるか。相手の意思を尊重できるか。

 

私も20代の若い頃は、「このままこの人(現夫)と何にも変わらず一緒に居た~い♡」なんて思っていました。

が、改めてよく考えてみると・・・

私たちの共通の友人は徐々に変化し、お互い転職もし、昔と違う視点で喧嘩をするようになっています。

そう、互いの考えも行動も昔とはそっくり変わってしまっているのです。

ただ、私はこの変わりようが嬉しい。これが夫婦として成長している、良い歳の重ね方をしているという実感があるからです。

 

この映画ではAIのサマンサもまるで人間のように成長していき、最後は人間の理解を超えた成長を遂げてしまいます。

この辺のサマンサの心理描写はチンプンカンプンでした。ただ、数百人の恋人と同時に会話しているサマンサに嫉妬するセオドアの姿にやるせなくなりました。

「ああ…私もアンタ(セオドア)っも所詮人間なんだよな…嫉妬なんていう時代遅れの感情を抱えてじれったい気持ちになるのは、人間にしかできないメンドクサイもんだよな…」

 

このじれったい、めっちゃめんどくさい、非合理的な心を抱えたまま生きるしかないのが人間。

時代が変わっても人間は人間であるという事実。

これが本気のSF映画であればどうしようもなく寂しいラストですが、セオドアが自分の感情と向き合った手紙をしたためることで、非常に明るく温かいラストとなっていました。この演出には非常に感動。

 

人と人とのかかわり合いについて、優しく諭してくれる映画でした。穏やかに楽しめる内容です。恋人や夫婦の関係に少しだけ疲れている人には是非お勧めしたいです。